東京地方裁判所 平成9年(ワ)5196号 判決 1997年8月29日
原告
NICニックハイム浅草第二管理組合
右代表者理事長
中里通宏
右訴訟代理人弁護士
永石一郎
同
土肥將人
同
渡邉敦子
被告
有限会社エム・クリエイト
右代表者取締役
松田松代
右訴訟代理人弁護士
新宮浩平
同
太田和夫
主文
一 被告は原告に対し、金一五四万三一〇〇円及び別紙明細表記載の各小計額に対する同表記載の各支払期限の翌日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文と同旨
第二 事案の概要
原告管理組合が、区分所有者である被告に対して管理費等を請求するのに対し、被告が請求債権の時効消滅を主張して争う事案。被告の右主張の当否が争点である。
一 争いのない事実等(請求原因事実)
1 原告は、原告住所地所在の区分所有建物(NICニックハイム浅草第二。以下「本件建物」という。)の区分所有者をもって構成される管理組合(権利能力のない社団)であり、原告の規約によれば、本件建物の区分所有者は管理費及び組合費(修繕積立金を含む。)(以下、これらを「管理費等」という。)を負担し(一九条一項)、右各費用は翌月分を毎月末日限り支払わなければならず(五九条二項)、遅延損害金は年14.6パーセントの割合によるものとされている(以上の事実は甲第一号証により認める)。
2 本件建物に属する二〇三号室は、分離前の被告佐々木均が所有していたが、平成八年一〇月八日、被告が競売により買い受け、同月九日所有権移転登記を経由した。
3 二〇三号室の区分所有者が支払うべき平成二年五月分以降の管理費等は、別紙明細表記載のとおりである(弁論の全趣旨により認める)。
二 原告の請求
よって、原告は被告に対し、平成二年五月分から平成九年三月分までの管理費等の合計一五四万三一〇〇円及び別紙明細表記載の各小計額に対する同表記載の各支払期限の翌日から支払済みまで約定による年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
三 被告の主張(抗弁)
原告の規約によれば、管理費等は毎月末日限り翌月分を支払うべきものとされているから、その請求権は民法一六九条に規定する定期給付債権であり、消滅時効期間は五年である。したがって、原告が請求する管理費等のうち、本件訴訟が提起された平成九年三月一八日より五年前に履行期が到来したものは、時効により消滅している。
四 原告の反論
1 時効期間
管理費及び組合費は、いずれも具体的に発生した費用をその都度徴収する煩を避けるため月額を定めて徴収するものであり、また、修繕積立金は、将来における本件建物の修繕等の計画を前提として、その費用を月額を定めて積み立てるものである。すなわち、管理費等は、区分所有者が区分所有権を有することに基づいて負担する債務であって、形の上では定期に支払われていても、民法一六九条が適用される基礎となる基本権たる債権が存在しない。したがって、同条は適用されないから、消滅時効期間は一〇年である。
2 時効の中断
二〇三号室の不動産競売手続において、原告はその管理費等の滞納状況につき上申書を提出し、最低競売価格は管理費等の滞納額を控除して算定されている。そして、被告は、右滞納状況を認識し、滞納額を控除した最低競売価格を前提として所有権を取得したものであって、これは債務の承認に当たる。
第三 判断
一 被告の抗弁について
被告は、原告の規約によれば、管理費等は毎月末日限り翌月分を支払うべきものとされているから、その請求債権は民法一六九条に規定する定期給付債権である旨主張する。
しかしながら、民法一六九条に規定する定期給付債権は基本権たる定期金債権(民法一六八条参照)から発生する支分権であることを要し、基本権の存在を前提としない債権は、それが「年又ハ之ヨリ短キ時期」に給付すべき債権であっても、同条を適用する余地はない。
ところで、原告の規約(甲一)によれば、各区分所有者は敷地及び共用部分等の管理に要する費用として管理費及び組合費(修繕積立金を含む。)を負担し、その額は総会の決議によって定められるものとし(一九条)、管理費等の額の決定又は変更及び賦課の方法の決定又は変更は総会の決議事項とされている(四九条)。もっとも、理事会は、毎会計年度における管理費等の値上げ率が対前年度比五パーセント以内であり、かつ、総理府消費者物価指数等の上昇率が五パーセント以上である場合は、各組合員に対し、値上げの理由を書面をもって通知することによって値上げすることができ(五九条四項イ)、また、組合費に不足が生じた場合、組合員は共有持分に応じて必要な額を負担しなければならないものとされている(六〇条)。
これらの諸規定に照らして考えれば、管理費等は、原則として会計年度ごとに総会の決議によって決定され、賦課されるものであるから、その請求債権は定期金債権ではない。したがって、管理費等の納付額が月ごとに分割されているからといって、個々の分割債権は基本権の存在を前提とするものではないから、その請求債権は民法一六九条に規定する定期給付債権ではなく、その消滅時効期間は民法一六七条により一〇年である。
そうすると、本件請求債権の消滅時効期間が五年であることを前提とする被告の抗弁は理由がない。
二 以上のとおりであって、被告の抗弁は理由がなく、前記争いのない事実等(請求原因事実)によれば、原告の請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。
(裁判官大内俊身)
別紙<省略>